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わすれえぬひとびと

武蔵野

国木田 独歩

線上閱讀国木田 独歩《武蔵野(わすれえぬひとびと)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 94,018 字 · 192 頁

青空文庫

※(始め二重括弧、1-2-54)四※(終わり二重括弧、1-2-55)

『ああワイの流れ! 林間の逍遙子よ、いかにしばしばわが心汝に振り向きたるよ!』その通りであった。わが心はこれらの圧力を加えらるるごとにしばしば藩匠川畔の風光を憶った。

今やいかに、今やいかに、わがこの一、二年の生活はほとんど佐伯を忘れしめ、しかしてたまさかに佐伯を憶えばあの時の生活はわれながらわれのごとくには思われなくなった。

※(始め二重括弧、1-2-54)四※(終わり二重括弧、1-2-55)

自分は詩集をそのままにして静かに佐伯のことを憶いはじめた。さすがに忘れ果ててはいない、あの時の事この時のこと、自分の繰り返した逍遙の時を憶うにつけてその時自分の目に彫り込まれた風光は鮮やかに現われて来る、画を見るよりも鮮明に現われて来る。秋の空澄み渡って三里隔つる元越山の半腹からまっすぐに立ち上る一縷の青煙すら、ありありと目に浮かんで来る。そこで自分は当時の日記を出して、かしこここと拾い読みに読んではその時の風光を思い浮かべていると

『兄さんお宅ですか』と戸外から声を掛けた者がある。

『お上がり』と自分は呼んでなお日記を見ていた。

自分の書斎に入って来たるは小山という青年で、ちょうど自分が佐伯にいた時分と同年輩の画家である、というより画家たらんとて近ごろ熱心に勉強している自分と同郷の者である。