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えどさんごくし
江戸三国志
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《江戸三国志(えどさんごくし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 577,271 字 · 1141 頁
「海はようございますな!」
と、突拍子もない声で、自分の存在を誇示するように、
「武蔵野に芒の伸びる頃もいいが海の趣もまた格別。来年はぜひこの久米之丞もお供致しましょう」
「あら」
と、初めてその人間に気がついたように、
「久米之丞様におすすめしているのではありませんよ」
「これはきつい御挨拶」
千蛾老人は突然上を向いて哄笑しました。
そこへ小間使いのおりんが馳けて来て、
「お嬢様、あちらの芝生へいらっしゃいませんか」
「鞠は?」
「ここに」
と、たもとの中に抱いている革の蹴鞠を見せますと、月江はすぐに亭の外へ走り出して、いつの間にか見えなくなった次郎の姿を探しながら、荘園の広場へ向って蝶のような姿を翻して行く。
「蹴鞠をなさるのでござるか、月江殿、月江殿」
と、それにつれて久米之丞も、あたふたと立ちかけますと、
「ああこれこれ」
と、千蛾老人はその出鼻を呼び止めて、
「お前にもう一つ厄介な頼みがある。そろそろ風が薄寒くなったから、奥の座敷へ来てくれんか」
「はっ」といったが、久米之丞はうらめしそうです。
「まだ何かほかに御用が?」
と、不承不承。
こう御隠家様の信用を取りすぎるのも好しあしだわい――と思いながら、月江の去ッた方をまだ眺めていますと、ポーンと快い音と一緒に、蹴上げられた鞠が若葉の上に高く見えます。