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しほんたいへいき

私本太平記(一)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(一)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 246,214 字 · 495 頁

青空文庫

いや満座百余の人々も、総立ちに起ち騒いだ。――高時はとみれば、早や細殿の長押に跳びつき、貝塗柄の薙刀を取って、それを小わきに、

「女は。女めは、どこに」

と、もとの大広間へと跳び返って来る。

高時の跳び歩くところ、酒器やら膳が音をたてて転がッた。彼自身も勢いよく突ンのめりかける、それを抱きささえ、或いは、なだめようとする近習たちの、

「あっ、おあぶない」

「太守っ、おしずまりを」

などと、うろたえ合う声々のどこかで、

「薙刀を取れ。お手の薙刀を、おあずかり申せっ」

道誉もまた、絶叫していた。

とはいえ、その道誉、その高時、側臣すべてが、昼からの深酒で、泥の如くみな大酔していた最中の出来事だったのだ。いわば誰ひとり正気なわけではない。

そうした席を、いや渦中を。

すばやく、大廊下の方へ、ただ一人、だだだっと駈け抜けて行った者がある。

高氏だった。

その手は、黒髪長き人を、横抱きにし、掌か紐か、ヒラと曳いていた色も、眼にとまらなかったほどである。

登子かと思えば、抱いていたのは、藤夜叉の体だった。――高氏は、角廊下まで来て、吊り燈籠の明りに、死に絶えているかのような藤夜叉の顔をしげしげ見つめた。