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しほんたいへいき
私本太平記(三)
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《私本太平記(三)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 222,108 字 · 446 頁
きのうまでの殿上人が、どうやってその艱難に耐えたろうか。天皇も皇子も公卿もみな跣足である。クマ笹や木の根に血をにじませ、雨は肌にまで沁みとおったことだろう。
「おおい……」
「オーイ」
呼び交わし、扶け合いつつ、初めのうちは天皇のおあとにつづく者十数名はかぞえられたが、谷へ辷り落ちたまま声なき者、道に迷ぐれて答えの消えた者、それに敵兵らしい気配にも折々脅かされて、いつか後醍醐のおそばには、万里小路藤房と、季房のふたりしかいなかった。
北畠具行は。
大納言師賢は。
公敏や、忠顕は。
そのほか、皇子の宗良も、奈良の聖尋坊も、ことごとく見あたらない。
「藤房」
「はっ……」
「そちはさきに楠木家へ使いした者、こう参れば、正成のおる河内の赤坂とやらへたどりつけようか」
「されば、その河内路を心あてにしておりますなれど、山から山の彷徨い、いかにせん、方角もわかりませぬ」
「まだ敵の中だろうか」
「だいぶ歩きました。が、ほどなく夜も明けましょう。それまでのおこらえを」
「明けたらまた、敵の目につく惧れも多いの」
「昼は、どこぞにお憩いあって、夜を行くほかありませぬが、幸いに風雨も小やみに見えまする」