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しほんたいへいき
私本太平記(三)
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《私本太平記(三)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 222,108 字 · 446 頁
と、必死なのだった。
ようやく、花山院師賢が顔をみせて、掃部の手からそれを受けとり、ただちに伏奏のうえ、天皇のみ前にさしあげた。
これこそは、いま具行が告げてきた事実を、もっと大きくしかも的確に、裏書していたものといっていい。
「…………」
侍座の諸公卿が、順次、両宮のお文と、忠円の書状を、廻し読みにして、そわそわと、青ざめているあいだを、後醍醐はまだお一ト言もいわず、また、黙視の瞼をとじることもなさらず、かえって、そのおん眼を一ツの灯にすえて、らんと大きく見つめておられた。
迷うときではない。
また迷っているひまもない。
後醍醐のおん眉は、つねそのままに、
「噪ぐまい」
と、まず廉子をなぐさめられた。そして次に、側近たちの、戦ぐ葦のような恐怖やら狼狽の影へ、
「むしろ、こよいの不慮は、儂の本意ぞ。かかることでもなければ、めったに、動座も思い立てぬ。すぐ、したくせよ」
と、命ぜられた。
「やっ、御動座とな」
あらためて、あたりの上達部(上卿)たちは、からだのしん底から、異様な感動につかれたような声を発した。
いまや取る途はそれしかないとは分っていたが、動座は天皇の蒙塵を意味する。