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しほんたいへいき
私本太平記(三)
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《私本太平記(三)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 222,108 字 · 446 頁
木へよじ登り、梢のさきから外へ夢中で跳び下りていた藤夜叉だった。
走るうちに、
「死んでしまえば……」
川音は彼女を少しおちつかせた。
帯もせず、肌着に下紐だけだった。田楽村の野性な一少女頃の潜在を、道誉の野獣の爪にかきむしられて、はしなくも、その本質が彼女の血に甦えっていたのかもわからない。
「……畜生」
と、彼女は風に唇を噛んだ。それは足利殿の想い女とも見えない狂女の眦だった。世の姫君そだちの女性とは根本からちがっている。たとえば、走るにしても、気の狂ッた白鷺が汀に何かを探し廻るような迅さであった。
でも、高氏のことだけは、
「殿に合わせる顔はない」
と、胸に忘れず、そして、
「……子のある身で」
という辱に、体じゅうを焦かれていた。この汚れた母の体で、何でふたたび不知哉丸を膝に抱けようかと、一途に思いつめているのらしい。
元々、田楽親方の花夜叉が、人買いから買ったか、親なし子を貰って来たかして、とにかく、一座の花形にまで、育てて来た藤夜叉なのだ。教養のありなしをここに問うなどは無理である。彼女は生れただけの女なのだ。……ただ天性の美と踊りの妙技だけを持っている。