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しほんたいへいき

私本太平記(五)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(五)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 252,330 字 · 505 頁

青空文庫

古記録のいずれもが、六波羅の敗亡を知るやいな、寄手の十数万騎、見えもなく、なだれを打って、逃げ退いたとある。はたして、そんなものだったろうか。

もすこし古記録の説を引いてみると――同時に千早の楠木勢が追い討ちに出で、そのため寄手は自分たちが設けておいた柵や逆茂木にさまたげられ、道にふみ迷い、あるいは谷にころげ落ち、十万余騎の攻囲軍も、残り少ないまでに討たれてしまった。――それゆえ後々までも、金剛山のふもと、東条谷のあたりには、矢の穴や刀創のある髑髏が、いつの世までも草むらにゴロゴロころがっていたという。

古来、戦ばなしとしては、以上のようなことに語りつたえられているが、ほんとはそんなわけではあるまい。

近江の番場では、同じ鎌倉武士の探題仲時以下四百何人が、ことごとく、枕をならべて壮烈な自刃をとげた。いかに衆をたのんでいたものにしろ、金剛山の下に埋まった白骨のみが、いたずらにそんな周章狼狽だけの犬死をとげたなどとは思われない。

おそらくは味方同士のあいだから、さまざまな誤伝や流説がわきおこり、また事実、たちどころに、

「いまからは宮方へ」

と、裏切りに出るなどの同士討ちもおこなわれたのではあるまいか。