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ぜにがたへいじとりものひかえ

銭形平次捕物控(一)平次屠蘇機嫌

野村 胡堂

線上閱讀野村 胡堂《銭形平次捕物控(一)平次屠蘇機嫌(ぜにがたへいじとりものひかえ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 156,866 字 · 318 頁

青空文庫

銭形平次捕物控

一

一

「親分」

ガラッ八の八五郎は息せき切っておりました。続く――大変――という言葉も、容易には唇に上りません。

「何だ、八」

飛鳥山の花見帰り、谷中へ抜けようとする道で、銭形平次は後ろから呼止められたのです。飛鳥山の花見の行楽に、埃と酒にすっかり酔って、これから夕陽を浴びて家路を急ごうという時、跡片付けで少し後れたガラッ八が、毛氈を肩に引っ担いだまま、泳ぐように飛んで来たのでした。

「親分、――引っ返して下さい。山で敵討がありましたよ」

「何?」

「巡礼姿の若い男が、虚無僧に斬られて、山は煮えくり返るような騒ぎで」

「よし、行ってみよう」

平次は少しばかりの荷物を町内の人達に預けると、獲物を見つけた猟犬のように、飛鳥山へ取って返します。

柔かな夕風につれて、どこからともなく飛んでくる桜の花片、北の空は紫にたそがれて、妙に感傷をそそる夕です。

二人が山へ引っ返した時は、全く文字どおりの大混乱でした。異常な沈黙の裡に、掛り合いを恐れて逃げ散るもの、好奇心に引ずられて現場を覗くもの、右往左往する人波が、不気味な動きを、際限もなく続けているのです。

「退いた退いた」

ガラッ八の声につれて、人波はサッと割れました。