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ぜにがたへいじとりものひかえ

銭形平次捕物控(一)平次屠蘇機嫌

野村 胡堂

線上閱讀野村 胡堂《銭形平次捕物控(一)平次屠蘇機嫌(ぜにがたへいじとりものひかえ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 156,866 字 · 318 頁

青空文庫

二

女は差し寄ってこう囁くのです。

「一人の命?」

「え、私の甥が人手に掛って死んだのに、届けるところへ届けても、取合ってくれる者もありません。それじゃこの世の中は闇じゃありませんか」

頬に通う香ばしい息、――それよりもガラッ八の本能は、話の重大性を直感して、この女の言いなり放題に、茶店の奥へ通る気になったのです。

「その話を聴こうじゃないか、人一人の命に係わるとか、甥が人手に掛って死んだという話を――」

二

ガラッ八の八五郎が神田へ帰ったのは、やがて戌刻半(午後九時)とも思う頃でした。

麻布から辿って一刻あまり、夜風にも醒め切れないホロ酔の顔を、押し拭いもせずに、そのまま銭形平次の前へ持って来たのでしょう。

「親分」

長い舌がペロリと上唇を甜めました。

「なんだ、八か。今頃どこから帰って来たんだ」

「親分」

「まア坐れ、入口に突っ立って物を言う人間は無いよ、――あッ、懐手をしたまま坐りやがった、呆れた野郎だ」

平次は口小言を言いながらも、気の置けない微笑を浮べて、果し眼の八五郎を迎えました。何か素晴らしい獲物をくわえて来た猟犬を迎える主人の態度――といった調子です。