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ぜにがたへいじとりものひかえ

銭形平次捕物控(一)平次屠蘇機嫌

野村 胡堂

線上閱讀野村 胡堂《銭形平次捕物控(一)平次屠蘇機嫌(ぜにがたへいじとりものひかえ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 156,866 字 · 318 頁

青空文庫

九

九

「あッ」

お藤は思わず悲鳴を――いや悲鳴というよりは、もっと深刻な、小さな叫びをあげました。

「お藤さん、――焼く物はそれでみんなか」

「…………」

誰も居ないお勝手、竈で書いたものを焼いていると、いきなり、後ろへ銭形平次が立っていたのです。二人の顔は近々と逢いました。お藤の顔は火のような怨みに燃えましたが、平次の静かな瞳に見詰められると、その激しさが次第に解けて、いつの間にやら、赤ん坊のように泣きじゃくっていたのです。

涙に濡れた青白い頬、その平面をカッと竈の火が照して言いようもなく悩ましいのを、平次は手を挙げて招きました。

「こっちへ来るがいい、――ここでは人に聴かれる」

お藤は立上がると、フラリとよろけましたが、やがて心を押し鎮めたものか、平次の後に従いました。

薄寒い二月の夜、月が町家の屋根の上から出かかって、四方は金粉を撒いたような光が薫じます。

「お藤、――俺にはみんな解っている、が、言わなければ本当にしないだろう。ここへ掛けて聴くがいい、俺の話が済んだら、お前にも訊くことがある」

「…………」

お藤は黙って捨石の上に腰をおろしました。

「お前は風呂場へ入って行って、主人の万兵衛に我慢のならない事をされた。