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ぜにがたへいじとりものひかえ

銭形平次捕物控(十四)雛の別れ

野村 胡堂

線上閱讀野村 胡堂《銭形平次捕物控(十四)雛の別れ(ぜにがたへいじとりものひかえ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 114,139 字 · 233 頁

青空文庫

銭形平次捕物控

一

一

「親分、変なことがありますよ」

八五郎のガラッ八が、長い顔を糸瓜棚の下から覗かせたとき、銭形の平次は縁側の柱にもたれて、粉煙草をせせりながら、赤蜻蛉の行方を眺めておりました。この上もなくのんびりした秋のある日の夕刻です。

「びっくりさせるじゃないか、俺は糸瓜が物を言ったのかと思ったよ」

「冗談でしょう。糸瓜が髷を結って、意気な袷を着るものですか」

ガラッ八はその所謂意気な袷の衣紋を直して、ちょいと結い立ての髷節に触ってみるのでした。

「だから、変なんだよ。糸瓜が髷を結ったり、意気な袷を着たり――」

「まぜっ返しちゃいけません」

平次とガラッ八は、相変らずこんな調子で話を運ぶのでした。

「じゃ、何が変なんだ、そこで申上げな」

「その前に煙草を一服」

「世話の焼ける野郎だ」

平次は煙草盆を押しやります。

「恐ろしい粉だ。埃だか煙草だか、嗅いでみなきゃ解らない」

「贅沢を言うな」

「相変らずですね、親分」

ガラッ八は妙にしんみりしました。江戸開府以来と言われた名御用聞の銭形平次が、その清廉さの故に、いつまで経ってもこの貧乏から抜け切れないのが、平次信仰で一パイになっているガラッ八には、不思議で腹立たしくてたまらなかったのです。