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ぜにがたへいじとりものひかえ

銭形平次捕物控(十四)雛の別れ

野村 胡堂

線上閱讀野村 胡堂《銭形平次捕物控(十四)雛の別れ(ぜにがたへいじとりものひかえ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 114,139 字 · 233 頁

青空文庫

二

合図をして御覧なさいよ。――扱帯は私のでも間に合わないことはないでしょう」

くるくると解いたお半の扱帯、同じ緋鹿の子絞りを、自分の手で土蔵の窓からサッと、外へ投げかけました。

川を隔てて、それを見たお絹は、どんな転倒した心持になったことでしょう。このとき福井屋の二階のほのめく物の影は、欄干に乗出してジッとこちらへ見入るのが、夕陽の中に白々と浮き上がるのです。

二

その翌る朝、丸屋六兵衛の死体は、店と土蔵の間、ろくな陽の当らない、ジメジメした路地の中に発見されました。

「わーッ、た、大変ッ」

張りあげたのは小僧の留吉です。

「何だ何だ」

飛出した多勢の中には、番頭の宗助も、掛り人のお半も、下女のお角も、手代の竹松もおりました。

傷は浴衣の後ろから一と突き、路地一パイに浸す血潮の中に、頑固一徹で鳴らした六兵衛は、石っころのように冷たくなっているのでした。

そこに集まった人数は、互に顔を見合わせるばかり、しばらくはどうしていいのか見当も付きません。

「旦那様」

番頭の宗助は、ともかく主人の死体を抱き起しましたが、そんな事をしたところで、呼び生けられるわけでもなく、ただ恐ろしい沈黙を破って、自分の息づまる心持を紛らすだけのことです。