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ぜにがたへいじとりものひかえ

銭形平次捕物控(十)金色の処女

野村 胡堂

線上閱讀野村 胡堂《銭形平次捕物控(十)金色の処女(ぜにがたへいじとりものひかえ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 137,868 字 · 278 頁

青空文庫

二

二

「あ、お前は」

お燗番の卯八は飛付きました。が、その徳利を奪い取る前に、船頭の三吉は徳利の口を自分の口に当てて、少しばかり残っていた赤酒を、雫も残さず呑み干してしまったのです。

「いいってことよ、今日は大役があるんだ。酒でも呑まなきゃ、仕事が出来るものか」

「でも、その酒を呑んじゃいけないことがあったんだ。しようがねえなア」

「ケチケチ言いなさんなよ、酒の一本や二本、なんでえ」

船頭の三吉は、お燗番の卯八の文句に取合う様子もありません。

それからの騒ぎが、どんなに悪魔的なものであったか、たった一人素面だった、若い芸者のお蔦だけがよく知っております。

一番先に狂態を演じたのは、江崎屋の清五郎でした。

「ウ、ハッハッハッ、ハッ、ハッ、ハッ、こりゃ可笑しい、ハッハッハッ、ハッ」

腹を抱えて笑い出すと、その洞ろな笑いが、水を渡り闇を縫って、ケラケラケラと川面一パイに拡がって行きました。

それをきっかけのように、しばらくの間坐ったまま、顔の筋肉をムズムズ動かしていた巴屋の七平は、物に憑かれたように起き上がって、筋も節もなく踊り始めたのです。

続いて菊次郎――日頃賢そうに取澄ましているのが、膳を二三枚蹴飛ばすと、湧き上がるような怪奇な手振りで、ヒョロリ、ヒョロリと人の間を泳ぎ廻るのです。