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なるとひちょう

鳴門秘帖(一)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《鳴門秘帖(一)(なるとひちょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 262,100 字 · 523 頁

青空文庫

もしや? と思わず縁側までペタペタと這ってきて、

「親分ッ……親分ッ……」

肉親のものを案じるような、悲痛な声で呼びたてていた。

「万吉」

「なんですか」

「誰かしきりに、大きな声をだしているようではないか」

「へ、どこでです?」

「向うの部屋らしい。この大雨の響きにまぎれているが、今、少し落ちついていると、さような気がしてならぬのだが」

「そうかしら? ……おや、なるほど、親分親分と呼ぶ声がしますね、何だろう」

「最前の席にいた、病人の多市と申す者ではあるまいか」

「そうかもしれません。だが、おかしいな、なんだッて大きな声で喚いているのだろう」

奥の部屋へ入って、帯を解きかけていた一八郎と万吉は、棒立ちになって、じっと聞き耳たてている。

憂いをおびた多市の声が、今度は、廊下の近くで、二、三度つづけざまに聞こえた。

「旦那」万吉は、眉に深い皺をよせて、声をのむように相手の顔をみつめる。

「また妙なことをいいだすようですが、どうもわっしは、宵から胸騒ぎがしてならねえんです。あの関の山を下ってきた時からそうなんで……、なにしろ気をつけるこッてすぜ」

「銀五郎が怪しいと申すのか」