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なるとひちょう
鳴門秘帖(一)
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《鳴門秘帖(一)(なるとひちょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 262,100 字 · 523 頁
身を沈めた弦之丞の肩越しに、天堂一角の体は斜めに飛んで、大廊下から庭先へと、見事もんどり打っていた。
――と思うと一閃の剣光、シュッと走って弦之丞の毛を斬ったかと思われる。
一角とてさすがである。櫓落しに投げ飛ばされた咄嗟には、空間に腰の大刀を払ったのみか、トーンと猫がえりをして庭先へ立っていた。
「くせ者!」
と、この時初めて呼ばわった。
同時に右手の大刀を、颯然と横に払ってきたので、彼はすばやく後ろへ身を開いた。その弾みに塗枠の襖障子一、二枚を煽って菊の間の中へドッと仆れる。
と見れば、広間は暗澹たる暗闇。
いつのまにやら一点の燈灯もなく、阿波守を初め三卿の人々は、物音と同時にすばやく奥へ退座してしまったらしい。
倒れた襖を踏みつけたので、弦之丞は菊の間の闇へよろけこんだ。その影こそ、不敵な曲者にまぎれもあらずと、胸を躍らしたのは衝立のかげに身を潜めていた竹屋三位。いつのまにか切目長押に掛けられてあった小薙刀を引き抱えている。
壮気はさかんだが、世間見ずの有村は、この屋敷の懸人になってから、いっぱしの武芸者となった気でいる。だが轗軻不遇とやらで、まだいっぺんも真剣の場合にのぞんだことがないのを常から嘆じていたところだ。