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なるとひちょう

鳴門秘帖(一)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《鳴門秘帖(一)(なるとひちょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 262,100 字 · 523 頁

青空文庫

指を指し示すとともに、

「それッ」

浪がしらがかぶったような勢いで、槍や刀、入りまじった二、三十名の武士が、ドッとその人影の後ろへ衝いて行った。

あやういかな、法月弦之丞。

前は満々とみなぎる水。

うしろは刀を植えならべた殺陣。

唐草銀五郎の遺志をついで、今宵初めて望む所の秘密境へ、一歩の足跡をつけた彼も、それをわずかの思い出として、ここに進退きわまるであろうか?

と思われたが……。

ハッと振りかえった途端に、弦之丞、案外落ちつきすまして、刀の柄をソロリと握った。

果たして凄い意気ごみで来た若侍たちも、六尺以上は近寄ってこず、自然と、そこへ半円の陣を作って、

「神妙にしろッ」

「のがれる道はないぞ」

口々に、空気合いの声ばかりが激しい。

彼がここでユッタリと構えたのは、充分な理由があることで、弦之丞には尊い一つの体験がある。

その話は――。

江戸雁木坂にいる戸ヶ崎夕雲。当代の名人であり、弦之丞の師であった。上泉流の剣法に虎白和尚の禅機を取り入れ、称して無住心剣夕雲流といっている。彼はその夕雲門で、まず第一の使い手だった。

ある年の春である。朧夜だった。