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なるとひちょう

鳴門秘帖(一)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《鳴門秘帖(一)(なるとひちょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 262,100 字 · 523 頁

青空文庫

恋の追分

年は若い、恋にも功名にも燃え立ちやすい青年である。何流をやったか、今見せた腕の冴えといい、宵を流す一節切の風流といい、ゆかしくもあるがあまりに美男な色虚無僧。その珠玉をつつむ天蓋はおそらく仇を避けるためでもなく、また宗門の掟にでもなく、旅から旅の一節切、浮気につきまとう仇情の女難除けであろうかもしれぬ。

その時、二階欄干に寄って、

「まあ、いい月だこと……」

呟いている女があった。

宵から、天堂一角の隣り座敷にいて、向うで断わった虚無僧を呼べといい、おまけに手酌をきこし召していたお嬢様――それは見返りお綱――小皿を投げたのもお綱であった。

いい月とは何の月? 欄に凭れたお綱の眸は、現のような色気に濡れて、弦之丞の腕の冴えならぬあの姿に、吸いつけられているではないか。

恋の追分

川長のお米はすこしどうかしている。

あの騒動のあった翌朝、ここの裏門から、こっそりと三ツの駕が出て行って、病人の多市も銀五郎も、またその夜泊まった法月弦之丞の姿が見えなくなってから早や四、五日。

きのうも今日も、お米は陰気な一間の塗箪笥に凭りかかって、ものに憑かれたような、祈るような、泣きたいような眸をジイと吊っていた。