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どようふじん

土曜夫人

織田 作之助

線上閱讀織田 作之助《土曜夫人(どようふじん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 106,903 字 · 213 頁

青空文庫

矛盾ではあったが、しかし、それが恋情というものであろう。なぜ陽子がそんな薄汚い草履をはいて来たのか、木崎には判らなかったが、しかし、草履をはいた陽子の後姿は、いつまでも瞼にこびりつき、淡い失恋の甘さにも似た後味があった。

「これでいいのだ」

ほっとした諦めであった。陽子を見た途端「しまったッ!」もうおれはこの女とはただでは済まない――という悔恨が、薄れて行く安心であった。

木崎は煙草に火をつけた。そして、かつて八重子への嫉妬に苦しんでいた頃、「法華経」の中から見つけ出した――

「愛する者に相逢うなかれ」

という文句をふと想い出していると、煙草は孤独のにおいがした。

しかし、配給の「ひかり」はすぐ火が消えた。木崎はごろりと仰のけに転って、天井をながめた。

天井には蜘蛛が巣をつくっていた。

「女たらしになってやろうか」

何の連想か判らない。が、だしぬけに泛んだこの考えに、木崎はどきんとした。

その時、いきなりドアがあいた。木崎ははっと起き上った。ドアをあけたのは陽子だった。

陽子は真青な顔で突っ立っていた。肩がふるえていた。

そして、そのふるえが、身体全体に移ったかと思った途端、陽子はいきなり木崎の前へぺたりと坐った。