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おおおかえちぜん

大岡越前

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《大岡越前(おおおかえちぜん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 218,436 字 · 437 頁

青空文庫

市十郎の頭は、その思い出を、ふと、泡つぶのように呼び起して、もう階下に待たせておいた者をわすれていた。

――階下では、その時、お島の声がしていた。

三平のどす声と、お島の癇性な声が、また、ゆうべよりも烈しく、何か、争い出している。

「そ、そうだ。……どこで野たれ死にするまでも、せめて、兄上だけには。――兄上だけには一ぺん会って」

階下へ行かず、彼は、そこの窓口を跨いで、雪の屋根へ、這い出した。

雪をつかんで喰べた。

往来の方からは、ぞろぞろと、崩れて帰って来る人たちが見える。その人々は、ふたたび、たったいま眼に見て来たものの感動を、口々にいい囃し、語りあいしてやまないのである。

市十郎は、耳をふさいだ。そして、もう一つかみ、雪を喰べ、人の流れる横丁は避けて、北屋根の方へ、四ツン這いに這い出した。

厠の出廂へ、足をのばし、恐々と、塀のみねを、猫づたいに渡って、家と家との間の、狭い路地へ飛び降りた。

――とたんに、勢いよく、足を前にして辷ッた。厚い雪が、彼の腰を埋めた。

木の葉虫

歳の市は、一年中の人出だ。浅草の観音堂を中心に、雷門も、横丁横丁も、人間の波、波、波である。