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おおおかえちぜん

大岡越前

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《大岡越前(おおおかえちぜん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 218,436 字 · 437 頁

青空文庫

これはこれ、見方に依っては、浄土の光景であり、菩提の相であり、人間即仏の曼陀羅であるともいえる。

「…………」

市十郎は、抱えていた膝がしらを、びッしょり涙でぬらしていた。

「ああ……」呻くように、われしらず、大きな息をもらしては、また膝がしらに顔を埋めた。

慈愛の炎は、凍えきッていた五体を、母のふところのように温くめてくれた。閉ざされていた氷心は春に逢い、人心地をよびさまされた。赤々と見える周りの顔は、みな美しい好い顔に見えた。その中で、自分だけが、羅刹か、餓鬼のような相をもっている気がされた。

「オ。……東が、明るくなってきた」

「明け鴉が啼いた。晴れだぞ、きょうは」

「粥も、煮えた」

人々が立つ頃、八幡鐘も明けの報らせを撞いた。大太鼓が鳴りとどろき、施粥が始まった。

世話人を買って出た者が、大勢を行列に就かせ、粥を汲んでやる者、後の米を研いで、二番釜の支度をする者、器のない者に器を貸してやる者など――まるで戦場のような騒ぎになる。

うらうらと、朝日がのぼる頃には、これを知って、集まってくる老幼の貧しい群れや病人などが、蜿蜒と、八幡前の町まで溢れる行列となって、今の世の怖ろしさを、まざまざと地上に描いた。