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おおおかえちぜん
大岡越前
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《大岡越前(おおおかえちぜん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 218,436 字 · 437 頁
ふたりは、顔をあわせると、奉行越前守の身を、心から案じていた。
越前守自身の身にも、ほかにも、山ほどな難問題が、山積しているのに、この上なお、私娼整理などに手をつけ出したら――と、ふたりの眉は、すぐ、その難を思って、越前守の、健康までを、心配した。
これまで、歴代の奉行のうちでも、私娼の整理や、風紀粛正の問題に、手をそめた者がないわけでは決してない。
しかし、それを、やり遂げた奉行は、ひとりもいなかった。
実際――江戸の夜の暗さのように、その頃の、風紀の紊乱というものは、ちょっと、今日からでは、想像もし難い。
舟まんじゅう、蹴ころ、夜たか、比丘尼、山ねこ、呼出、躍り子、白人、脚摘、地獄、蔭間、等々々の名は、みなそれらの闇の花の代名詞だった。
これを、取り締ると。
影は、消える。
けれど、たちまち、琴や小唄の稽古所、しもたやの貸二階、寺院、寺やしき、果ては、旗本の邸内までが、人肉の市になり、弊害は、なおひどく、病毒や犯罪のあり方も、陰性の度を加えるばかりだった。
特に、寺院や旗本やしきに、隠し売女をかくまって、ひそと、労力のない利をむさぼる習慣は、以来、抜けきらないものになって、これが、柳営の大奥とも、いつのまにか、肉欲の地下道をつくり、奉行所の力でも、今では、牢固として、触れ難いものにすらなっていた。