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おおおかえちぜん
大岡越前
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《大岡越前(おおおかえちぜん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 218,436 字 · 437 頁
「では、法令は、道義でございますか」
「法は、法それ自体が、道義の規矩じゃ。法を愛するは、道義を愛することになる。剣の人、宮本武蔵のことばにも、その独行道の第一に――我レ世々ノ道ニ違フナシ――とか申しておる。剣の道とて、法をはずしては成りたたないのだ。しかしまた、道義を口に、良民を威圧し、道義をかんばんに横行して、悪の押売する俗志士、偽君子も世間に多い。法は道義などといえもせまい」
「では、情でしょうか」
「法は人の情を主として裁くべきかと訊くのか。かまえて、左様な量見では、判官として正しい裁きは相成るまい。情は、学ぶべきも、白洲においても、どこに於いても、意識してはならぬ。なぜならば、裁く我が身も、情の器、凡愚煩悩の人間であるから」
「じゃあ、何と考えてよいでしょう、法の真体は」
「人間にはなし難いことを、人間がする。示し……とでも申そうか」
「示しとは」
「神の意じゃ。――神ならねば、裁き得ぬはずのものを、人間が代って、それを示す。おもえば、難かしい……。おたがいは、人間すぎる」
「けれど、人間を裁くには、人間なればこそ、よく裁き得ることもありましょう」
「そうだ」