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おおおかえちぜん

大岡越前

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《大岡越前(おおおかえちぜん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 218,436 字 · 437 頁

青空文庫

禍いを捨てて行かれい」

「いや。時の奉行たるおん身すら、職のためには、身にかかる禍いを避けようとはなさらない。医は仁術とか。愚老も、仁愛のためには、身の禍いも、厭いますまい」

暗い廊下を、楽翁の足音が、遠くなって行った。――越前守は、残された燈火のまえに、さし俯向いていた面を、きっと上げると、

「たれかおらぬか。勘蔵っ、左右太。……はよう来いっ」

与力部屋の方で、はっという返辞がした。けれど何か、その三名で、押し問答でもしているらしい。そんな声がしながらなかなか誰も来ないのである。

越前守は、やや甲高く、また、呼んだ。

「与力部屋にはたれもおらんのか。……義平太でもよいっ。すぐ来い」

「はっ、ただ今っ」

ばたばたと、窓の外に、足音がとまった。そこから、ひざまずいて、

「――御用は?」

「お。義平太か」

「義平太にございます」

「…………」

越前守のことばは、容易に、かれの口から出なかった。が、押し出すような語気で。

「うむ。そちでもよい。今、医者の市川楽翁が立ち帰って行ったが、見たか」

「はっ。承知しております」

「楽翁を追いかけて、いま越前に示した印籠を、受け取って来い。