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おおおかえちぜん
大岡越前
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《大岡越前(おおおかえちぜん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 218,436 字 · 437 頁
で、お縫との結婚を、こころに急いでいるうちに、同族五郎左衛門忠英の刃傷事件で、一門の蟄居がつづき、それが解かれた今日でも、なお、公儀への拝謁を憚っている関係から、ふたりの婚儀ものびのびになっていた。
――とはいえ、家つきのお縫はまだ二十歳、決して晩いわけではない。むしろかの女は、雨を待つ春さきの桜のように、綻びたさを、姿態にも胸にも秘しながら、毎日、午すこし過ぎると、江戸千家へ茶の稽古に、なにがし検校のもとへは琴の稽古に、欠かすことなく通っていた。
きょうも。――その時刻に。
お縫は、門を出て、薬研坂の方へ、降りかけてきた。
と、道の木蔭にたたずんでいた味噌久が、
「あ。お嬢さま。……大岡様の御息女さまでいらっしゃいましたな。どうも、よいところで」
前へまわって、頭を下げた。
「まいど、ごひいきになりまして」
「たれなの。そなたは」
「石町の蔦屋という書肆でございまする。おやしきの若旦那さまには、たびたび、御用命をいただいては、よく……」
「お目にかかっているというの」
「はい、はい。今日も、実はその、かねがねお探しの稀本が、売物に出ましたので、お目にかけに、出ましたのですが」