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おおおかえちぜん

大岡越前

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《大岡越前(おおおかえちぜん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 218,436 字 · 437 頁

青空文庫

いったい、牢舎の増築は、何を意味するものか。

吉宗は、考えざるを得なかった。

北町奉行はそれを誇りとしている。果たして、誇りだろうか。――ということよりも、新将軍たる吉宗自身の安んじられるところだろうか。

彼の年少時代にはあった本来の野性。そして野性から磨きあげられた情熱と理想とは、大きな人間群の実態にぶつかって、近来、手も足も出ないような気もちに追いこまれかけていた。――あとの行く道は、このまま美衣美食に肥えたぬるい神経のもち主となって、大奥に寵姫の数を殖やし、将来、無益で徒食の権利だけのある子どもを幾十人も生ませ、塗炭の民の上に、金殿玉楼の、生ける身の柩をもって老いを待つだけの事でしかない。

とても、吉宗に、我慢のできた生活ではない。一膳めし屋の飯の味や、肉を売る闇の女が夜蕎麦売りの灯に舌つづみを打っている姿も知っている彼だ。どれほどそッちの方が生き甲斐ある人間らしい生命かとも思うのだろう。――何しろ、彼は、その事について、胸を割って語りあえる者は、越前守一人と、ひそかに思っていたのである。

が、その越前を、朝暮に、胸にうかべながら、ここ数ヵ月は、令をもって、招きもできない事情であった。