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おおおかえちぜん
大岡越前
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《大岡越前(おおおかえちぜん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 218,436 字 · 437 頁
「曲がッた。――そっちへ抜けたッ。――捕まえてくれっ。泥棒だ泥棒だ」
コソ泥は必死に逃げ、石町の鐘つき堂をぐるぐる廻り、また追いつめられて、瀬戸物町の方へ馳けたが、折ふし通りかかった二人づれの同心に、番所に居合せた捕方の三、四人も加わり、逃げれば逃げるほど、追えば追うほど、由々しい大物でも懸かるような騒ぎを伝えた。
京橋尻の、もと梅賀がいた家の近くに、河に添って広い空地があり、伐り残された団栗林のわきに、軒傾いた木賃宿が二、三軒ある。
市十郎は、そこの破れ窓から、何気なく首を出した。――どこか近くで、どたどたっと、烈しい跫音がひびいたと思うと、団栗林の方で、久助によく似た声が、何か突然、わめいたように思われたからだった。
「おやっ?」
捕手らしい人影に囲まれて、ひとりの男が、むごく引ッ張られて来るのが見える。撲られるたびに、泣くような喚くような声も聞こえ、その一群れは、この木賃長屋と船玉神社のあいだを通って、往来へ出て行った。
「久助だっ」
愕然とし、――かれはうしろにお燕が泣くのも捨てて、木賃の土間から飛び出した。
夕闇せまる往来には、黒々と人立ちがして、縄付を指さしあっていた。