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おおおかえちぜん

大岡越前

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《大岡越前(おおおかえちぜん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 218,436 字 · 437 頁

青空文庫

が――お袖のたよりは皆目聞くこともなく、ふと、会いもすまいかと、そら恃みの偶然もなかった。

それが彼の今では第一の目的だったが、日毎の木賃の払いにも金がいる。かれは、背にお燕を負い、面を破れ編笠にふかく隠して、素謡をうたいながら、恥かしそうに人の軒端に立った。――それもなるべく人目立たぬ浅草、下谷あたりの職人町などをえらんであるいた。

行方さだめぬ道なれば

ゆくへ定めぬ道なれば

こし方も、いづくならまし

もう町は師走に入っていた。年暮の忙しさ。その中を、金春流の素謡の節を、浮世離れた悠長さにながしてゆく。――が、咎める者もなく、また、芳捨の銭も、稀にしか、彼の扇子に乗らなかった。

――しかもこのほど、雪ふりて

仙人に仕へし雪山の薪

※(歌記号、1-3-28)かくこそあらめ

※(歌記号、1-3-28)われも身を――

※(歌記号、1-3-28)捨人のための鉢の木

切るとても、よしや惜しからじと

雪うち払ひて見れば

おもしろや、いかにせん

きょうも“鉢の木”の一節を流しながら、鳥越から浅草見附の方へ出てくると、わらわらっと町中に人の跫音が沸き、かれの側をも馳け抜けた一群れの者に、あぶねえッと、呶鳴られた途端に前へ突きとばされていた。