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がまのち
日本怪談大全 第一巻 女怪の館
田中 貢太郎
線上閱讀田中 貢太郎《日本怪談大全 第一巻 女怪の館(がまのち)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 192,678 字 · 394 頁
平吉には判らなかった。
「黴の匂ですか」
「そうよ、黴の匂を嗅いで、何か思いだしやしないこと」
「べつに、何も」
「ないの」
「ねえのです」
「私は思いだすよ、私は黴の匂を嗅ぐと、娘の時のことを思いだすよ」
「へえ」
「汝はぼくねんじんね」
「へえ」
「痴ねえ、この人は」
「へえ」
「いいから」窓の左側になった箪笥へ指をやって「あの引抽を開けておくれよ」
「へい」
平吉はうごかなかった。平吉はなにかしら主婦から重大なものを求められそうな気がしているので、箪笥の引抽を開けると云うようなあっけないことをする気になれなかった。
「あの引抽だよ、上から二番目だよ」
「へい」
平吉はしかたなしに箪笥の前へ往って二番目の引抽に手をかけた。
「そっくり脱いて来ておくれよ」
「へい」
平吉は引抽を啓けた。中には単衣らしい女物が入っていた。平吉はその引抽を脱いてお高の前へ持って往った。
「やっと持てたね」
お高は何かしら平吉にからむのであった。
「へえ」
「これをすましたら、佳い物を見せてあげるから、ね」
「なんです」
「立ってもいてもたまらないと云うものだよ、どう」
「へえ」
お高は引抽の中の衣服を手早く胡蓙の上へ出して、傍の渋紙包を解き、その中の畳んで二つにしてあるのを延ばし延ばし引抽の中へ入れた。