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がまのち

日本怪談大全 第一巻 女怪の館

田中 貢太郎

線上閱讀田中 貢太郎《日本怪談大全 第一巻 女怪の館(がまのち)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 192,678 字 · 394 頁

青空文庫

「いや、すこし事情があるが、そのことはもう聞いてくれ給うな」

「そうか、それじゃ聞くまいが、君はこれからどこへ往く、僕の家へ往こうじゃないか」

「ありがたいが、僕はすこし事情があるから、失礼する」

私は弘光に何か深い事情があると思ったので、強いて云わずに名刺をだした。

「ここにいるから、都合の好い時にやって来給え」

と、渡そうとしたが、彼は手を出さないで、

「いや、名刺が無くっても君の処は知ってるが、とても君の処へは往けない、僕は今晩おそく、東北の方へ往くことになってる」

「そうか、それじゃ強いて云うまい、また今度の機会に逢おう、では、機嫌好くし給え」

「別れようか」

弘光はこう云って、私と離れて電車通りを横断って、日本橋のほうへ往ったが、その後姿は、黄昏の黄ろな光の底に蠢いている人群の中へかくれてしまった。私は凄愴とでも云うような陰鬱な気もちでそれを見送っていた。と、そのとき、大塚行の電車が動きだした。私は眼が覚めたようにそれに飛び乗って、冷たい真鍮の棒を握りしめた。片手の掌に名刺を持ったなりに。