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がまのち
日本怪談大全 第一巻 女怪の館
田中 貢太郎
線上閱讀田中 貢太郎《日本怪談大全 第一巻 女怪の館(がまのち)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 192,678 字 · 394 頁
明るい月が出て室の中に籠っているのも惜いような晩が来た。彼はふらりと宿を出て海岸へ往ってみた。月の光にぼかされた海は静かで、磯には有るか無いかの浪が、さ、さ、さ、と云う音をさしていた。
彼は沙の上に引きあげられた漁船の間を潜って、魚見岬の方角のほうへ歩いて往ったが、何時の間にか倦いて来たので引っかえしていると、二人の女伴が岩の上に腰をかけて話しているのが見えた。そして、その傍を通りながら見ると、一人は令嬢で一人はお供の婢らしかった。二人は彼の跫音を聞きつけて云いあわせたように顔を向けたが、その令嬢の顔は芳郎の眼前に残っている顔にそっくりであった。彼は驚いてその顔を見返したが、束髪には赤い花は見えなかった。
芳郎は二三歩往き過ぎてから立ちどまった。………もしや、彼の女ではあるまいか、も一度見なおしてやろうと思って後もどりをしかけると、女伴はもう起ちあがっていた。月の光に浮き出たような二つの女の顔がこちらへ向いた。令嬢の顔ははじめに見たような顔ではなかったが、それでもどこかにちょと似た処があった。
女伴は何か囁きながら陸の方へあがって往った。芳郎はすぐ往ってしまわれるのが何となく惜いように思われたので、往くともなしに後から跟いて往ったが、沈着な平生の態度は失わなかった。