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まつのやろはち
松のや露八
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《松のや露八(まつのやろはち)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 125,597 字 · 253 頁
御三卿の臣といえば、直参も同様だし、やがては、徳川家の第二の柱石でもある青年たちが、あまりに、世才に走り、文化に洗練されすぎて、規模が小さく、線が細く、時勢を小馬鹿にしているふうの賢さが、見え透いて、嫌な気がした。
で――時には、彼らを、床に坐らせ、師範席から高く見おろして、一場の訓諭を垂れることがある。
「諸君」
と、肩の肉をもりあげて、
「――そも、今日を、何と心得めさる。時は今、文久元年でござるぞ。幕府にあっては、内憂外患の秋、当一ツ橋様におかれては、御大老井伊掃部頭殿の刺殺せられた後をうけて、将軍家のご後見となり、幕政御改革に、夜も、安らかに、御寝なされぬと洩れ承る。やがて来るものは何か。薩南の青年や長土の若者は、何を目ざして来つつあるか。おのおのの眼には映らぬか。剣道精神と申すものは、かかる有事の秋にこそ、発揚すべきもの。竹刀打ちの小技や、免許取りに、憂き身を窶す遊芸ではござらぬぞ」
そう、たしなめた終りには、必ずまた、もう一言つけ加えることを、入江師範は忘れなかった。
「――よろしいかの、ちと、先輩の土肥庄次郎や、お客分の渋沢栄一殿(当時篤太夫、また篤太郎とも称す)の勉強を見習うたがよかろうぞ」