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まつのやろはち
松のや露八
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《松のや露八(まつのやろはち)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 125,597 字 · 253 頁
待合茶屋の豆腐やそら豆ではあきたらない。板新道へ出る、金春をつながって歩く、行く先々で、飲みだした。
飲むまいとするほど、執拗にからまれるので、庄次郎も、赤くなって、せまい湯屋の裏だの脂粉の香のもれる窓先だのを、
「こんな所もあるのかなあ――」
三味線掛けの赤い布だの、鏡台に向いてもろ肌をおし脱いでいる女たちだの、ちんとした長火鉢だの、女竹のうえの風鈴だのを、いつのまにか、好ましい気持になって、のぞいて歩いた。
「野暮だ、こんな物、どこかへ、預けてしまえよ」
一人が、酔った紛れに、彼の手から竹刀と風呂敷づつみの免状を奪って、青簾の出窓から、知らぬ家の中へ、抛りこんでしまった。
「あ、それやいかん」
「明日でも、明後日でも、取りに参ればよいさ。――こらっ、その竹刀と包み、預けておくぞ」
すだれ越しに、
「はい」
女の返辞がした。
庄次郎は、狼狽して、
「いけない、いけない」
格子の前に立つと、小さい板に、
(ごしなん荻江さと)
と、書いてあった。
「いいじゃないか。荻江節の師匠だ、お里。――分かっとる。明日来い、明日――」
先に歩いている多勢が、よろよろ、戻って来て、