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わすれえぬひとびと

武蔵野

国木田 独歩

線上閱讀国木田 独歩《武蔵野(わすれえぬひとびと)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 94,018 字 · 192 頁

青空文庫

奥に松山を控えているだけこの港の繁盛は格別で、分けても朝は魚市が立つので魚市場の近傍の雑踏は非常なものであった。大空は名残なく晴れて朝日麗かに輝き、光る物には反射を与え、色あるものには光を添えて雑踏の光景をさらに殷々しくしていた。叫ぶもの呼ぶもの、笑声嬉々としてここに起これば、歓呼怒罵乱れてかしこにわくというありさまで、売るもの買うもの、老若男女、いずれも忙しそうにおもしろそうにうれしそうに、駆けたり追ったりしている。露店が並んで立ち食いの客を待っている。売っている品は言わずもがなで、食ってる人は大概船頭船方の類にきまっている。鯛や比良目や海鰻や章魚が、そこらに投げ出してある。なまぐさい臭いが人々の立ち騒ぐ袖や裾にあおられて鼻を打つ。

『僕は全くの旅客でこの土地には縁もゆかりもない身だから、知る顔もなければ見覚えの禿げ頭もない。そこで何となくこれらの光景が異様な感を起こさせて、世のさまを一段鮮やかにながめるような心地がした。僕はほとんど自己をわすれてこの雑踏の中をぶらぶらと歩き、やや物静かなる街の一端に出た。

『するとすぐ僕の耳に入ったのは琵琶の音であった。