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わすれえぬひとびと

武蔵野

国木田 独歩

線上閱讀国木田 独歩《武蔵野(わすれえぬひとびと)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 94,018 字 · 192 頁

青空文庫

その仕組みがおもしろい、甲の手紙は乙が読むという事になっていて、そのうちもっともはなはだしい者に罰杯を命ずるという約束である。『もっともはなはだしい』という意味は無論彼らの情事に関することは言わないでも明らかである。

さア初めろと自分の急き立つるので、そろそろ読み上げる事になった。自分がそばで聴くとは思いがけない事ゆえ、大いに恐縮している者もある。それもそのはずで、読む手紙も読む手紙もことごとく長崎より横須賀より、または品川よりなど、初めからそんなのばかり撰んで持ち合ったのだから、一として彼らの情事に関しないものはない、ことごとく罰杯を命ずべき品物である。かれこれするうち、自分の向かいにいた二等水兵が、内ポケットから手紙の束を引き出そうとして、その一通を卓の下に落としたが、かれはそれを急に拾ってポケットに押し込んで残りを隣の水兵に渡した。他の者はこれに気がつかなかったらしい、いよいよ読み上げが済むとかの酒癖の悪い水兵が、オイ水野、貴様は一つ隠したぞと言って、サア出せと叫んだ。こいつけしからんと他の水兵みな起ち上がって、サア出せいやなら十杯飲めと迫る。