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わすれえぬひとびと

武蔵野

国木田 独歩

線上閱讀国木田 独歩《武蔵野(わすれえぬひとびと)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 94,018 字 · 192 頁

青空文庫

『もう寝ようかねエ。随分悪口も言いつくしたようだ。』

美術論から文学論から宗教論まで二人はかなり勝手にしゃべって、現今の文学者や画家の大家を手ひどく批評して十一時が打ったのに気が付かなかったのである。

『まだいいさ。どうせ明日はだめでしょうから夜通し話したってかまわないさ。』

画家の秋山はにこにこしながら言った。

『しかし何時でしょう。』

と大津は投げ出してあった時計を見て、

『おやもう十一時過ぎだ。』

『どうせ徹夜でさあ。』

秋山は一向平気である。杯を見つめて、

『しかし君が眠けりゃあ寝てもいい。』

『眠くはちっともない、君が疲れているだろうと思ってさ。僕は今日晩く川崎を立って三里半ばかしの道を歩いただけだから何ともないけれど。』

『なに僕だって何ともないさ、君が寝るならこれを借りていって読んで見ようと思うだけです。』

秋山は半紙十枚ばかりの原稿らしいものを取り上げた。その表紙には『忘れ得ぬ人々』と書いてある。

『それはほんとにだめですよ。つまり君の方でいうと鉛筆で書いたスケッチと同じことで他人にはわからないのだから。』

といっても大津は秋山の手からその原稿を取ろうとはしなかった。