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わすれえぬひとびと
武蔵野
国木田 独歩
線上閱讀国木田 独歩《武蔵野(わすれえぬひとびと)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 94,018 字 · 192 頁
豊吉はしばらく杉の杜の陰で休んでいたが、気の弱いかれは、かくまでに零落れてその懐かしい故郷に帰って来ても、なお大声をあげて自分の帰って来たのを言いふらすことができない、大手を振って自分の生まれた土地を歩くことができない、直ちに兄の家、すなわち自分の生まれた家に行くことができない。
かれは恐る恐るそこらをぶらつき初めた。夢路を歩む心地で古い記憶の端々をたどりはじめた。なるほど、様子が変わった。
しかしやはり、変わらない。二十年前の壁の穴が少し太くなったばかりである、豊吉が棒の先でいたずらに開けたところの。
ただ豊吉の目には以前より路幅が狭くなったように思われ、樹が多くなったように見え、昔よりよほどさびしくなったように思われた。蝉がその単調な眠そうな声で鳴いている、寂とした日の光がじりじりと照りつけて、今しもこの古い士族屋敷は眠ったように静かである。
杉の生垣をめぐると突き当たりの煉塀の上に百日紅が碧の空に映じていて、壁はほとんど蔦で埋もれている。その横に門がある。樫、梅、橙などの庭木の門の上に黒い影を落としていて、門の内には棕櫚の二、三本、その扇めいた太い葉が風にあおられながらぴかぴかと輝っている。