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わすれえぬひとびと

武蔵野

国木田 独歩

線上閱讀国木田 独歩《武蔵野(わすれえぬひとびと)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 94,018 字 · 192 頁

青空文庫

その代わり僕も遠慮なく話すよ。なんだか僕の方で聞いてもらいたいような心持ちになって来たから妙じゃあないか。』

秋山は火鉢に炭をついで、鉄瓶の中へ冷めた煖陶を突っ込んだ。

『忘れ得ぬ人は必ずしも忘れてかなうまじき人にあらず、見たまえ僕のこの原稿の劈頭第一に書いてあるのはこの句である。』

大津はちょっと秋山の前にその原稿を差しいだした。

『ね。それで僕はまずこの句の説明をしようと思う。そうすればおのずからこの文の題意がわかるだろうから。しかし君には大概わかっていると思うけれど。』

『そんなことを言わないで、ずんずんやりたまえよ。僕は世間の読者のつもりで聴いているから。失敬、横になって聴くよ。』

秋山は煙草をくわえて横になった。右の手で頭を支えて大津の顔を見ながら目元に微笑をたたえている。

『親とか子とかまたは朋友知己そのほか自分の世話になった教師先輩のごときは、つまり単に忘れ得ぬ人とのみはいえない。忘れてかなうまじき人といわなければならない、そこでここに恩愛の契りもなければ義理もない、ほんの赤の他人であって、本来をいうと忘れてしまったところで人情をも義理をも欠かないで、しかもついに忘れてしまうことのできない人がある。