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しほんたいへいき

私本太平記(三)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(三)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 222,108 字 · 446 頁

青空文庫

思考を、逆にかえてみる。

それほどなら、なぜ一ト思いに欲情を晴らしてしまわないのか。その方がはるかに自然なはずではないか。

ところが、兼好の理想だと、

「やはり割が合わない――」

勘定になるらしい。

女と契れば、鎖ができる。周囲の絆や、子も出来る。それらの者を養うためには、職を持って、心ならぬ権門へも付かねばならぬ。

「しょせん、一庵の巣に隠れて、乱世をよそに、藪雀のような気ずい気ままはしてはおれまい。……そのうえ、妻子の枷を求めるなどはやりきれん」

いまもそう思い返して、眼を書物へ沈めていたのである。――と、洗い物など干しおえた藤夜叉が、やがてそこへ、麦菓子の点心(茶うけ)に、茶を入れて運んできた。

「兼好さま、これは今朝見えたお人の、いただき物でございますが」

「オ、代書料にくれた麦煎餅か。お藤さんもここで食べたがよい。……命松丸は」

「つい今、裏におりましたが」

「よう遊び飽かぬ奴。……さ、あんたも食べぬか」

彼女に付きまとっていた家雀は、兼好の膝や机の上に移って、彼が食べこぼす麦粉を拾って啄むことで夢中になり、彼は一喫の茶のうちに、ふと、彼女の俯し目がちな面に、今日はまた凄艶なべつな美を見つけ出していた。