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しほんたいへいき
私本太平記(五)
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《私本太平記(五)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 252,330 字 · 505 頁
守時が待っていた。
背を大樹にもたせて、髪もみだし、槍を杖に、
「南条か」
やっと、立ちささえている姿だった。
「ア、どこを。いますぐお手当てをいたしまする」
「それには及ばぬ」
青い眼のふちは笑っていた。
「……わしは果てる。本望と思って死ぬ。あとをたのむ」
「なんの、まだ」
「いや死なせてくれ。そちは侍大将。退けまいが、はや退くがいい」
「思いもよらぬ仰せ。伊豆田方郡で重代ご恩をうけた鎌倉殿の臣。退くほどなら斬り死にします。自分の郎党も目の前に死なせておるものを」
「そうだったな。惜しい者ほど、散りいそぐか。ならば行け。思うさま武士の名に生きるがいい」
「赤橋どのは」
「あれで」
と、守時は槍を杖にすこし歩いた。すぐそばに小さい北野天神の祠があった。縁にあぐらして、守時は静かによろいを脱いだ。――見るにたえず、高直は下にうずくまったが、顔を上げたとき、もうその人は紅の座に前身を俯つ伏せていた。
敵の目にふれてはと、首を掻いて、祠の裏に穴を掘った。気づいたのはそのときで、守時の首は一通の文をかたく咥えていた。なぜかは知らず、南条は自分の口からしぜんに出た念仏と共に土をかけた。