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しほんたいへいき
私本太平記(五)
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《私本太平記(五)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 252,330 字 · 505 頁
そこでいよいよ不審をもち、道を追って来ると、この始末であったという。
「こよいも宿直と、……誰が、そんなことを言ったのか」
途々、尊氏の問いに、供頭の石堂十馬は、そのさい、過ッて尊氏のからだを跳び越えた罪をも詫びて、
「たそがれ、新田の供廻りが言いおりましたが、念のため、千種殿の方で訊くと、同様、こよいはお迎えなしだと申しまする。そのいずれもが、まことしやかな言でしたので、ついそれを信じての不覚、おわびのいたしようもございませぬ」
と、言った。
「そうか」
とのみで、尊氏は彼らの手ちがいは、ふかくも責めず、事もなげに、宿所へ帰った。
けれど、彼にとっては、骨髄に徹するほどな、これが衝撃だったのはまちがいあるまい。石段で打ったふしぶしの痛みもあろうが、よく眠れなかった様子である。あかつき、平等王院の寝所を出て、
「石堂。ゆうべの曲者を庭へ引いて来い」
と、いいつけたのも、まだほの暗いうちだった。
石堂十馬と仁木於義丸のふたりが、やがて、がんじ縛めにした若い男を縁の雨落ちの辺にひきすえた。そこで尊氏自身から「――どこの家来か」「誰に頼まれたか」を、さんざんに質してみたが、男は口をとじ、どうかすると、その口辺に、不敵なうすら笑いをみせるだけだった。