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しほんたいへいき

私本太平記(五)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《私本太平記(五)(しほんたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 252,330 字 · 505 頁

青空文庫

――で、それらのお人を連れ出して、どこか途中で出会うべき打ちあわせが必要だった。そのため、吉良、細川の二将は別れて、急遽、鎌倉へ駈けもどった。

しかし、あとの直義も、すぐには退けない。――退けば追撃をくうからである。

日いっぱい、擬勢を張って、陣をくずさず夜を待った。そして二十一日の真夜中、ひそかな退却にかかり出したときである。彼は何を俄かに思いだしたか、

「おう、忘れていた。伊賀、伊賀、これへ来い」

と、旗本の一士、淵辺伊賀守という者を、なぜかわざわざ、人なき所へさしまねいた。

「左馬頭(直義)さま。何ごとで?」

と、淵辺もふと、妙な顔してひざまずいた。

「な。……わかったか」

直義は言った。

相手の耳へ口をよせ、何か、ささやいた後にである。

毛の生えた耳の穴の持ちぬしにも似ず、淵辺伊賀守義博は、

「……はっ」

と、からだの慄えにたえるだけが精いっぱいか。直義の顔をただ息をつめて見すえてしまう。

ふ、ふ。

とその主君の唇もとに冷笑を見ると、淵辺は恥に打たれたように、持ちまえの武者ぎもを具足の肩にいからせた。そして奮然それに答えかけたが、直義がまた言っていた。