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ぜにがたへいじとりものひかえ

銭形平次捕物控(十四)雛の別れ

野村 胡堂

線上閱讀野村 胡堂《銭形平次捕物控(十四)雛の別れ(ぜにがたへいじとりものひかえ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 114,139 字 · 233 頁

青空文庫

ともかくも溝口屋へ行った平次は、三河町の佐吉の轍をふまないように、外廻りから探索の手をつけました。表通りは六間間口の磨き抜いた格子。――そこは宵から締めていたはずで、鐘五郎の命を狙う者などの忍び込んだはずはなく、裏へ廻ると、狭い庭を距てて長屋が五六軒。按摩と、屑屋と、人足と、占者と、地紙売とが住んで、仕舞い忘れた洗濯物くらいは狙うかも知れませんが、人の命などを狙いそうなのは一人もありません。

その中で一番筋の立ったのは、もと飯田町の人入れ稼業で、伏見屋伝七の子分――と言っても、庭掃きや飯炊きをしていた馬吉という男だけ。伏見屋が没落してからは、人足にまで身を落しましたが、臆病馬吉という綽名で呼ばれて、本人も大して極りも悪がらずに返事をする呑気者。尺八を吹くのと、上手に飯を炊くほかには、なんの取柄もない男です。

「あの晩、何か気の付いたことはないのか」

平次の問いに対して、馬吉は虫喰い月代を撫でながら応えるのでした。まだ三十そこそこ、若くも威勢よくもあるのですが、何の因果か生得恐ろしい臆病者で、こう平次に訊かれてさえ、もうガタガタ五体が顫え出して、言うこともしどろもどろといった心細さです。