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ぜにがたへいじとりものひかえ

銭形平次捕物控(十四)雛の別れ

野村 胡堂

線上閱讀野村 胡堂《銭形平次捕物控(十四)雛の別れ(ぜにがたへいじとりものひかえ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 114,139 字 · 233 頁

青空文庫

そう言いながら左陣は湿った土の上を指しました。よく見ると、死骸のあった場所から店の方はさんざん踏み荒らして、何が何やらわかりませんが、死骸から木戸まで三四間ほどの間は、左陣の注意でよく保存されたらしく、透かして見ると、小刻みの足跡がはっきり読めるのです。

「ここはあまり人が通らないのか」

「滅多に通りません。暗くて陰気で、いつでもジメジメしておりますから」

番頭の宗助は注を入れました。足跡をよけて木戸の外へ出ると、河岸っ縁は初秋の陽が一パイに射して、カッとするような明るさ、鼻の先の鎧の渡しを隔てて、向う河岸の家並が、人間の表情まで読めそうに見えるのでした。

「お、あれはどうした?」

ガラッ八は土蔵の二階窓を振り仰ぎました。そこからは赤い鹿の子絞りの扱帯が、仕舞い忘れた洗濯物のように、朝風にハタハタと動いているではありませんか。

「へッ、気が付きましたかえ、親分。あいつは合図なんで」

小僧の留吉が応じます。

「合図?」

「若旦那が、新茅場町の福井屋に帰っている、御新造への合図を送ったんで。へッ」

「お黙りッ」

お半は我慢のなり兼ねた様子で留吉の耳を引っ張りました。