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なるとひちょう

鳴門秘帖(一)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《鳴門秘帖(一)(なるとひちょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 262,100 字 · 523 頁

青空文庫

今夜だけは、誰か他の者が山へまいっても、これから先へは上って来ぬようにして貰いたいの」

「ごもっともでござります。では、お邪魔をせぬことにいたしますゆえ、どうぞごゆるりお催しなさいまし」と、神主は立ち去る武士を見送って、何の疑心もなく、また膳へ戻って茶漬の箸をとりはじめた。

社家の門を離れた自来也鞘の侍は、神主へ一応の念を押してから、安心したように、そこからなお、右折左折、苔清水に濡れた石段を上って、やがて、神さびた額堂の方へスタスタと歩いて行く。半ば朽ちかけた額堂の欄間には、琵琶を抱いた蝉丸の像や、関寺小町の彩画や、八景鳥瞰の大額などが、胡粉に雨露の気をただよわせ、埃と蜘蛛の巣の裡にかけられてあった。

しかし、それは、昼ここを訪れた人の見られるもので、今は額堂全体も四囲の山もトップリ暮れて、社家の方から、大股にここへきた武士の影は、すぐ額堂の濃い闇の中にかき消えてしまった。

と思うと、低い幾人ものささやきが、自然に声を高めて、そこからガヤガヤと洩れだした。よく見ると、額堂の中には、少なくとも二十人以上と思われる人数が、あぐらをくみ、柱にもたれ、欄に倚り、思い思いなかっこうをして怪異な集合をしているのだった。