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なるとひちょう

鳴門秘帖(一)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《鳴門秘帖(一)(なるとひちょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 262,100 字 · 523 頁

青空文庫

けれど、この女のなだらかな江戸言葉で、江戸の風物を語られることは、決して悪い思い出ではない。

「お武家様にしてみれば、江戸はなおさら羽振のいい土地。同じ編笠をかぶるにしても、刀の差しよう、髷の結い方まで、どこか違っておりますので、見る目もなんとなく頼もしゅうございます。私は気まぐれに、上方見物にきた帰りでございますが、もしなんなら、その江戸までご一緒にお帰りなさってはどうでござります」思いきって、こういってのけてみたものの、もし弦之丞が承知したら、なんと間が悪いことだろう、道中も洒々として歩けはしない、などとお綱は他愛もない取り越し苦労までする。

弦之丞はただ笑っていた……そして不意にきっとなった。

誰か二、三人で駈けてくる者がある。

見ると、松林を縫って、肩に月影の斑をチラチラ浴びて急いできた者が、弦之丞の姿を見つけると、そこへ飛んできて、

「おっ、ここにおいでなさいましたか」と息を弾ませた。と、また一人があわただしく、

「弦之丞様、た、大変でございます」と、少し声をわななかせてつけ加えた。その者たちは、弦之丞も見知っている、大津絵師半斎の店の若い男どもであった。