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なるとひちょう

鳴門秘帖(一)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《鳴門秘帖(一)(なるとひちょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 262,100 字 · 523 頁

青空文庫

「オオ、ちぬの浦が明るくなった」と呟いた。

霧の底から海があらわれ、霧の上から朝の陽がさんさんと射る。一の洲二の洲の水尾木も、順に点々と明け放れて、潮の満ち満ちてきた安治川一帯、紺の大水に金泥を吐き流したよう。

高いところで法螺の音が鳴った。

蜂須賀家の水見櫓――。

阿波へ出るべき卍丸は、今、ともづなを解いている。

上の過書船支配所でも、それに答える川合図をする。と、半刻ほどは舟止めとなり、ウロ舟、物売り、石垣舟、すべてが影をひそめてしまうところは、ちょうど陸における大名行列が下座先触れの法式と変りがない。

森啓之助の乗りこんだ脇船は、一あし先に川口へ漕ぎ出していた。

ところで、お米はどうしたろう。

今朝は彼女の船出ともいえる。だが、ああ、それはなんと暗い運命の船出だろう。

脇船の底――長櫃の中――そこにあるのは永遠の悲恋と恐怖の闇ではないか。このかがやかしい光明の微塵もないのである。

やがて着く彼岸で、その泪と闇の長櫃の中から、どんなお米の運命が生まれることやら……?

それは知るよしもなく、知る者は、今船やぐらに立っている啓之助のみだった。

「オオ……よく凪ぎた、よく凪ぎた。