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なるとひちょう

鳴門秘帖(一)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《鳴門秘帖(一)(なるとひちょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 262,100 字 · 523 頁

青空文庫

そこに蔵前風な丸髷の美女が、冬の陽ざしを戸閉していたら、誰が目にも、この屋敷の若奥様か或いはお妾様、――まさかに掏摸の見返りが居催促とは見えなかろう。

だが、華やかなお側女様の生活にも、人知れない苦労があるごとく、今のお綱の腹の中も、なかなかのんきな置炬燵ではない。

旅川周馬が帰ってきたら、どういう手段で、お千絵様の居所を聞き出そうか、ということも一つの心配なら、また、今日あたりは万吉が、妻恋の方へ吉報を聞きに来ていやしまいか、というのも気が気ではない苦労である。

そうかと思うと、お綱はまた、お伽草子の拾い読みに、はかない女の恋物語などを見出して、弦之丞のことに思いくらべ、思わず知らず一日を暮らしてしまうこともある。

――こうしてここの空屋敷に、七日ばかり落ちついてしまった。

八日とたっても、まだ旅川周馬は帰ってこない。

「どうしたのだろう?」

お綱も少しあきあきしてきた。

「こんなにいつまで戻らないところをみると、この屋敷に門標は打ってあるが、ここには、住んでいないのかしら?」とも考えられてくるのである。

「第一に、お千絵様――」お綱はそれをしきりに思索した、「万吉はああいうけれど、この屋敷のどこにもいる気配はない。