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なるとひちょう

鳴門秘帖(一)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《鳴門秘帖(一)(なるとひちょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 262,100 字 · 523 頁

青空文庫

所は京橋、桜新道――長沢町の裏あたりである。

「オヤ?」

と、飲みかけていた盃を下に置いて、

「火事ではないか」

今頃になって、迂濶至極なことをいいながら、ガラリと、裏二階の障子を開けて首を出した者がある。

お十夜孫兵衛と、旅川周馬であった。

もっともそこは、喜撰という額風呂の奥で、湯女を相手に、世間かまわず騒げるような作りなので、さっきからの半鐘も、聞こえぬくらいに静かなのである。

「オオ、大変な火の粉――」

空を仰いで、お十夜がこういうと、旅川周馬、バラバラッと、表二階へ駈けだして行った。と――すぐにまた、そこへ取って返してきて、

「お十夜、大火だ! 大火だ! しかも火元は神田だそうだ」

少し酒の気は醒ましている。

「大丈夫だろう……」孫兵衛は席へ戻って、手酌の一盞を、チビリと唇に鳴らしながら、

「いくら風が強勢でも、まさか、あの高台までは燃えてゆくまい」

「イヤ、そう安心はしていられない。とにかく、ここを引き揚げて、屋敷の安否を見届けねばならぬ」あわてて刀を差しかけるのを見ると、

「おい周馬、ちょっと待ちねえ」

お十夜は、何か不服があるらしい。

「イヤに落ちつき払ったな。