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なるとひちょう

鳴門秘帖(一)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《鳴門秘帖(一)(なるとひちょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 262,100 字 · 523 頁

青空文庫

「ちと、ものを伺いまするが……」

と天蓋の縁へ指をかけた。

「はい、なんでございますな」

「昨夜御府内に、大火がありましたとやらでござるが……」

「さよう。ございました」

「駿河台の辺はどうでございましょう」

「焼けました」

「お茶の水の上にある組屋敷は?」

「組屋敷……というと?」

「大府の隠密方、甲賀組の家ばかりがあります所で」

「おお、あれも皆焼けたそうです」

「えっ、焼けましたか」

「そんなふうで」

「ウーム……」と思わず太い嘆息をもらして、茫然としてしまった。

この虚無僧こそは、いうまでもなく法月弦之丞、かれであった。

大阪表から東海道へ下ってきた――。かなり急いできたのである。

禅定寺峠の上で、あえない死を遂げた唐草銀五郎の真心にうごかされて、初志をひるがえした弦之丞は、まず、安治川の蜂須賀家の様子をほぼ見届け、阿波守が帰国する船出までを確かめて大急ぎに、江戸へ引っ返してきたのである。

江戸には、先に万吉をよこしてある。いずれ万吉はもうお千絵様と会って、銀五郎がああなったことや、また自分が来るべきことを、とうの昔に話して手筈をしているだろう――とばかり思ってここまで来た。