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なるとひちょう
鳴門秘帖(一)
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《鳴門秘帖(一)(なるとひちょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 262,100 字 · 523 頁
「少々、おたずね致しますが……」
二人の侍は虚無僧ずれの会釈をうるさく思うのか、または、焼け出された憂いに暗然としていて耳に入らぬのか、それにも答えず、チラチラと、顔や袖にかかる雪も払わずに立っていた。
「おたずね致しますが……」
もう一度こういうと、
「なんだ」
と、にべもなく、端の一人がふり向いた。
「まことに失礼なことを伺いまするが、やはり貴公方は、甲賀組のお武家でござりますか」
「なに?」
「焼けた組屋敷のお人でござるか」
「そうだ」
「おお、それならば、或いはご承知ではござりますまいか? ……」
「何をじゃ」
「組屋敷のうちでは第一の旧家――世阿弥殿の娘お千絵と申す者の行方を?」
「や、お千絵を!」
「はい」
「貴様、たずねているのか」
「いかにも」
と弦之丞が、ふと天蓋の小縁をあげて、その侍の顔を覗いた刹那である。
ほとんど、双方が一緒に、
「おお!」
「あっ!」
とおどろいて、火と水とが触れ合ったように弾き返った。
と――弦之丞が、次の言葉をかける間もあらばこそ、怪しげな二人の侍――霏々とふる雪のあなたへ、脱兎のごとく逃げだしてゆく――。
家のうつばりがミシリミシリと軋むほかは、音もなく降り通していたゆうべの大雪。